社長ブログ

「紙か、デジタルか・・・。」 ~ ドラマ「舟を編む」から考える ~

2025.08.05

 前回のブログで触れたテレビドラマ「舟を編む ~私、辞書つくります~」も、すでに第7話。
 6話後半より辞書編纂のスタイルに大きな障壁が…。

 「紙か、デジタルか…。」
 辞書編纂をめぐる対立と調和への模索が第7話のテーマのようです。「紙媒体」と「デジタル媒体」の選択をめぐっての葛藤が描かれ、辞書という「ことばの海を渡るための舟」を、いかなるかたちで編み上げるべきか…この選択は、単なる出版形式の違いにとどまらず、言葉との向き合い方、読者との関係、文化の継承にまで波及する深い問いを孕んでいます。

 紙媒体の支持派は、辞書を「手触りのある文化財」として捉えます。紙の辞書には、物理的な重みやページをめくる所作、欄外の注記など、情報の伝達だけでは語りきれない体験が詰まっているという主張です。特に『舟を編む』に登場する馬締氏のような人物にとっては、言葉に対する敬意、発見の喜び、編纂者の魂が紙面に宿ると信じて疑わない姿勢があります。辞書を「編む」という行為そのものが、紙の束を通じて完成するという感覚が根底にあるからです。また、紙媒体の利点として、情報の固定性と保存性が挙げられます。改訂の手間はあるものの、一度確定された記述は変わらず、長期的に保存されやすいし、災害やシステム障害にも比較的強く、図書館や教育機関では今なお根強く紙の辞書が利用されている現実もあります。
 一方で、デジタル媒体には情報更新の迅速性と検索性という圧倒的な利点があります。言葉は時代とともに変化するものであり、例えば新語や使用実態が変化する中で、紙の辞書では対応が遅れるという欠点を補うこともできます。電子辞書や辞書アプリを通じて、数秒で膨大な言葉にアクセスできる便利さは、特に若い世代にとって「言葉との距離を縮める」手段でもあります。また、ユニバーサルデザインへの対応も進んでおり、視覚的な配慮や音声検索、外国語翻訳など、多様な利用方法が可能となり、デジタル辞書は単なる「辞書」という枠を超え、コミュニケーションツールとしての側面も帯びています。

 この対立は、単なる利便性の比較ではなく、言葉に対する「態度」や「哲学」の違いを反映しているのではないでしょうか。「紙」の支持者は言葉を慎重に扱い、精緻な定義と時間をかけた検討を重視する。一方で「デジタル」は即時性やユーザー中心の設計を優先する。これは「編む」行為が持つ内省的な側面と、「使う」ための言葉へのアプローチの違いとも言えそうです。

 ドラマでは、こうした立場の違いが対立を生みながらも、徐々に相互理解へと移っていく様子が描かれました。どちらかが「正しい」とするのではなく、互いの利点を活かしながら「ことばの海を渡る方法」を模索する姿勢が重要であるという立ち位置です。「紙か、デジタルか」という二元論を超えた柔軟な発想の先に「複合型辞書」の構想が生まれました。いわゆる「いいとこ取り(ハイブリッド)」「融合」です。
 基本的な定義や語源、語釈は紙媒体で提供しつつ、語の用例や最新の語彙動向、ユーザーとのやり取りによって得られた知見をデジタル版で随時補完していく。こうしたハイブリッド型の辞書は、編纂者の哲学を守りつつ、時代に応じた更新も可能にするという考え方です。また、紙の辞書にQRコードを添え、そこからデジタル情報へのリンクを導入することで、読者が二つの媒体を横断的に利用する形も考えられます。こうした方法によって、「紙の文化的重み」と「デジタルの情報拡張性」を共存させることが可能となる展開です。

 舟を編む。そのさらに先へと視野を広げていく。
 辞書編纂という「言葉を記録する営み」は、単なる作業ではなく、文化の根幹に関わる創造的行為だと思います。紙とデジタル、そのどちらも舟を進めるための帆となり得ます。大切なのは、その帆にどんな風を受け、どこへ航路を定めるのか。その選択こそが、言葉と人との未来を形づくるのだと思いました。実に奥深く、考えさせられる時間でした。8話からがまた楽しみです。<令和7年8月5日 NO.34>

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